いつもの専門ガッコで授業してた時のことだ。
お話をしたり、問診表を書いてもらうことのほかに、直接観察することからもたくさんの情報が得られるよ、という例として、毎年「シャーロック・ホームズ」の話をする。
ホームズは初対面の相手を瞬時に観察し、その特徴から人となりや過去のこと、果ては相手の相談事までズバリと当て、来談者を煙に巻くことがある。
驚く相手に「いや、気にしないで下さい」と言って余計気にならせたりして憎いやつだよコンチクショウ、なのですが、そういった人の悪さも大好きなところだったりする。
そう、別に例としてはほかに色々あるのになぜわざわざホームズか、と言えば何のことはない。
私が好きだからである。
超絶なマニアに冠せられる「シャーロキアン」を名乗るほどではないが、いつかはロンドンのベーカーストリートの221Bを訪ねてみたいと思っている程度のファンではある。
いやまあ、その手口のモデルとなった実在の人物が、作者のコナン・ドイル氏が医者の卵だったころ指導を受けたお医者さんだって辺りでまったくの無関係と言うわけではないのだけど。
話がそれた。
で、先日も観察の大切さの例として、ホームズの話をしてみた。
「シャーロック・ホームズ、皆さんご存知ですよね?彼が作中よくやっていたように、目に見える範囲からもたくさんのことが・・・」
みなさん、「あー、そんなのあったよね」って顔して聞いてらっしゃるのだが、一人だけ、挙動が変なのがいた。
キョロキョロと周囲を見渡し、後ろの席の生徒にボソボソと話しかけていたりする。
あれ?
「どうしました?」
「いや、ええっと、あのー」
「・・・もしかして、ご存じない?」
「はあ・・・・」
「なんと!」
ええ?マジで?って顔して彼女を見る学生さんたち。
20年近く生きてきたら、かならずどっかで名前ぐらい聞いていそうなもんだけど。
だって、アレだぜ?世界中で、聖書に次ぐ出版数を誇ってるらしいぜ?イスラム圏はどうなのかしらんけど。
どんな生活してたら、ホームズの名を知らずにそこまで過ごせるのか。
さて、困った。
どう説明したもんだか。
明らかに、私とは違う文化圏(大げさ)で人生歩んできている人だ。
小難しいこと言っても通じなさそうだし。
「・・・コナンくんの、遠い遠い、ご先祖様です」
「はあ」
「探偵、わかりますね?浮気調査とかしてるヤツじゃなくて、誰にも解けない事件の謎を、鮮やかに解決してみせるようなヤツ。そのスタイルの、一番初めの人です!厳密に言うと、他にもいなくはないのですが、われわれの知る『探偵』というもののスタイルを確立したのがシャーロック・ホームズで、そのずーっとずーっと子孫にあたるのが、金田一くんだったり、コナンくんだったりするのです!」
「ああ!」
金田一くん辺りで、やっと理解してくれたらしい。
ホームズ先生!
あたしゃ、ちっとは先生の名を知らしめるお手伝いができましたでしょうか。
願わくば、彼女が「子孫」という言葉を勘違いして、本当に血のつながった子孫だと思いませんように。
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