とあるスーパーに買い物に行った時のことだ。
荷物が増える前に、ちと用足しでもしとこうかね、と案内板に従い、店舗の隅っこの方へ。
ああ、ここは男性用、女性用の他に身障者用のトイレが別に用意されてんのか。ドアにベタベタ貼られた広告を眺めながら男性用へ。こういうとこにゃ必ず「ハrンケア」の広告が貼られてるよな。
ぱたぱたと走り寄る足音がする。
小さな子供だ。小学校低学年くらいかな。
・・・狭い通路で後ろから駆け寄られた時には、振り向きざま殴り倒しても良いと思うんですがダメですかそうですか。
追いかけるように飛び込んできたガキと二人で並んで用を足す。
さすが小学生。
勢いが違うのか何なのか。
さっさと出て行ってしまった。
あれ、あのボンズ、手洗ったのか?
備え付けのドライヤーで手を乾かし、買うべきものを思い出しつつ通路へのドアを引き開ける。
耳だ。
いきなり視界に入ってきたのは、人間の左耳だった。
次いで頭、肩、手、胴体。
男性用トイレの前に、何者かが立ちふさがっていた。
その姿勢がまた奇妙だった。
顔を横に向けて片耳を正面に向けているのに、身体は真正面を向き、出口をふさいでいる。肩の高さで正面に向けられた掌は、まるでそこに見えない壁があるかのごとく微動だにしない。
パントマイムの人?
いや、違う。
トイレの入り口のドアに耳を当てて、中の様子をうかがっていたのだ。
うかがおうとした瞬間、中から私がドアを開けてしまったがために奇妙な姿勢で固まってしまったのだ。
すわ、変態さん?
頭に三角巾(?)、身体の前面を覆うエプロン、よく見りゃ若い女性ではないか。
そうか、世の中には奇特な趣味をお持ちの女性も・・・いや違う。ここのスーパーの店員さんじゃないか。
高校生ぐらいの、バイトさんと思われる。
「わひゃあ」だったか「うにゃあ」だったか、やや不細工な悲鳴が私の耳に届く。
ドアを開けてからここまでコンマ以下数秒。
私もその声につられて驚き、一歩下がる。
「うをっと」
あー、そう言えばトイレに入る前、身障者用トイレのドアに「店員によるチェック中です」とか貼ってあったっけ。そっか、順番に各トイレ点検して、最後に男性用のチェックに入る前に様子うかがってたのか。
うら若き乙女がズカズカ入ってくのは、そりゃ気が引けるわ。
にゃるほどねぇ。
「あっあのっ!」
「あーはいはい、点検ですねー」
「あ、ええとっ!」
「んーと後は誰もいないみたいですよー」
「え、はぅ」
「じゃどーもお疲れ様ー」
訳が分らん、って顔してましたが。
慌てる女の子はめんこいですなぁ。
うひひ。
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