「のんたろう先生って、確か工具持って歩いてませんでしたっけ?」
小学生と中学生の入れ替えの時刻。
担当の生徒がまだ誰も来てないのでやや呆け気味の私に塾長が尋ねた。
何かをひねるようなその手つき。
ドライバーかな。ああ、卒業生の書いてくれた色紙、額に入れて壁に掛けるのか。
「ああ、はい、持ってますよ」
ぶは、と噴き出す声が聞こえた。
私と塾長のちょうど中間ぐらいの位置に座ってらっしゃる、小学生担当のT先生だ。
一度噴き出してなお、笑いをかみ殺してはる。
はて。
ん?
「あっ!T先生!別にワタクシいつも工具を携帯して歩いてるって訳じゃありませんからね!車に積んである、ってぐらいの意味ですよ!」
「いえ、失礼。なんかこう、のんたろう先生が工具を常に持って歩いてる姿を想像して・・・」
「ストーカーとか、犯罪者みたいだ、と」
「ぶは」
ああっ!
塾長まで人を犯罪者扱いするなんて!
二人がかりでゲラゲラ笑わなくても!
アタシ、そんなに犯罪者が似合いますか!
ええと。
そう言や設備屋でサービスマンやってたころは、工具持って歩くの当たり前だったなあ。
作業服のポケットにはしまい忘れた工具が一つや二つ、必ず入ってたし、腰の後ろのベルトには車の運転する時以外大抵プラスドライバー突っ込んであったよな。忍者刀か、っつの。
今思えば、武装度高すぎ。
ウチ帰って服脱ぐと、ドラゴンボールみたいに「ゴトン」って音するの。
どんだけ工具持って歩いてたんだか。
それで仕事帰りにフツーに買い物とか行ってやんの。
ボディチェックされたら大変なことになったんだろうな。
今や昔のお話でつが。
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