「ははあ、ずいぶんとアクティブな子供だったんだねえ」
「そんなこと無いですよ!」
怒ったような口調でその子は言う。
「私、小さなころはとってもおとなしい子だったんですよ」
いやまあ、当時も「子」だったんだろうけど、今でもあたしから見りゃ十分子供ですけどね。
「ああ、うーん。いいかい?」
かんで含めるように、言って聞かせる。
「おとなしい子供はね、たんすの引き出しを下から順に引っ張り出して階段代わりにして登って落ちたりはしないものなんだよ。ましてや、そのときの怪我で、おでこに『天下御免の向こう傷』とかこさえたりしない」
昔の時代劇の登場人物を喩えに用いる手法は、中学生には難しすぎたかもしれない。
「そんなことないです!」
はあ、左様でございますか。
「わたし、子供のころはアリのように大人しかったんです!」
「ええ?アリ?あの虫の?」
「そうです。私アリのように大人しかったんです」
そりゃいろんなアリがいるだろうけどさ。
私の知る限り、アリってのは大抵せわしなく活動してて、あっちをチョロチョロこっちをチョロチョロ、と忙しげに動いてる生き物なんですが。
どういう意味で言ってたんだろう。
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